幼馴染みと、恋とか愛とか
それを自分の脇から見つめてる人の表情は明らかに曇り、ふ…と息を吐き出すのが聞こえた。


「何しに来たんですか、社長」


少し怒った様な口調で訊いてる。
隣に座った紫苑は首藤さんに視線を流すと「別に」と答え、「カウンターで飲みたくなっただけだ」と続けた。


「女達が煩くてさ」


取り囲まれて飲むのにも疲れた…と話し、「ミネラルウォーターを一杯くれ」と言っている。


「こいつにも」


親指で私を指差し、「飲むだろ?」と聞いてくるからホッとした。


「はい」


助かった…と肩の力が抜けだす。
紫苑はそんな私をちらっと確かめ、何気ない顔つきで前に向き直る。

首藤さんは彼の行動を呆れ顔で見つめてたけど、結局何も言わず、その場を明け渡すようにカウンターチェアを滑り降りて行った。



「………紫苑」


ホッとしたけど大丈夫だろうか。
首藤さんの機嫌を損ねたんじゃないの?


「なんて顔してんだよ」


振り向いた紫苑は私の表情を見て笑う。
能面みたいに顔が白いぞ…と指差し、トン…とミネラルウォーターが入ったグラスを目の前に置いた。



「飲めよ」


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