幼馴染みと、恋とか愛とか
ボーナスとか昇給とかアテに出来ない。
毎月頂く給与から天引きで貯金もしてたから。

それに、他にも理由があって……。


「意外だなぁ」


どれだけ人の女子力を舐めてるんだ…と思うような発言に眉根を寄せる。
紫苑はそれに気付いたみたいで、でもやっぱり驚きは隠せないように目を丸くしていた。



「……だったら頼むよ」


急に声のトーンを上げると、椅子から立ち上がってこっちに来る。


「三日に一回でもいいから、まともに手料理が食べたい」


「まあ作る相手は萌音だけどな」と笑い飛ばし、私じゃ悪い!?と啖呵を切りたくもなったけど。


(まあいいか)


「頼まれた」


快く引き受けてやると微笑んでくる。
子供の頃と変わらない茶色の瞳が細くなるのを確認して、ふんわりと気持ちが温かくなっていくのを感じた。


「それじゃスケジュールを見て作れる日を決めるわ。食べたい物があればその都度リクエストするか紙に書いて」


カチャカチャとキーボードを叩いて話す。
紫苑は「分かった」と頷くとデスクに戻りだし、私はちらっとその背中を見遣った。



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