幼馴染みと、恋とか愛とか
手に握ってるコーヒー缶が冷や汗でベタベタしてる気がする。
だけど、私のことを見てる首藤さんの顔が、返事を聞いて急に綻んだ。



「そうして下さい」


良かった…と囁く声が優しく聞こえるだけに怖い。
やっぱりこの人には何処か裏がありそうな気がしてしまい、ぎゅっと缶を握り締めた__。





「どうかしたのか?」


社長室に戻り、ドアを閉めた途端その場で立ち尽くす私に紫苑が訊ねる。
ハッとして彼の方に目を向け、「ううん、別に」と首を横に振ったが。



「萌音?」


いつもの様に名前を呼び捨てて立ち上がる。
紫苑の靴音が近付くのが聞こえ、驚いて目線を上げた。


「どうした?顔色が悪い」


覗き込む様に上半身を屈ませる紫苑。
子供の頃、泣いてる私によくそんな風にしてくれた。


「な…何でもない」


同じように泣きそうになって目を伏せる。
ちょっとエレベーターに酔っただけ…と嘘を吐き、座ってれば良くなるから…とデスクに着いた。


「本当に大丈夫か?」


いつもなら揶揄ってきそうな場面なのに、紫苑は真面目くさった声で問う。

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