幼馴染みと、恋とか愛とか
「平気」と言いながらデスクに伏せ、少しだけ休ませて…と願った。


「少しと言わずにゆっくり休め」


どうせ外に出るから…と言う紫苑に頷きを返し、「行ってらっしゃい」と軽く挨拶を済ませた。



「ああ、行ってくる」


紫苑の声は頭上から聞こえた。
ポンポンと後頭部に置かれた掌が髪の毛を撫で、するりと離れていくから心許ない。

何処にも行かずにこの部屋に居て欲しい。
一人になんてなりたくないと我儘を言い、紫苑を困らせてやりたい。

 
子供の頃みたいに今も紫苑に甘えられたら。
ぎゅーっと抱き締めて貰えたら、こんな不安は消えていきそうなのに。



ぐっと涙を堪える私の耳には、ドアの閉まる音しか響かないで、それがすごく頼りなげに感じる自分がどうかしてると思った。



(もうあの頃とは違う……)


私達は大人なんだ。
過去と同じようにはなれない__。



「……ひぃ……くっ…」


漏れだした泣き声に、泣くな…と言い聞かせるけど無理。
あの時の恐怖が蓋を開けて、再び私を飲み込みそうな気配を感じた。

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