幼馴染みと、恋とか愛とか
両方…と言い掛けてハッとする。
これはもしかしてお弁当のリクエストをしてるんじゃ……。


「紫苑」


中央のデスクに座る彼に視線を向けると、間違いなく期待に満ちた顔をしていて。


「頼む!」


社長のくせにおでんを作って欲しいと頼むのも、多分紫苑くらいのものではないだろうか。


「萌音が作れる範囲でいいから頼む!おでんを食わせてくれ!」


両手を合わせて願われた。
私としては迷うところだったけど、あの日以来、お弁当も作ってなくて心配もしてたから……。


「いいよ。分かった」


「作ってくる」と言うと立ち上がって喜び、入れて欲しいもの色々とリクエストするもんだから可笑しくて。


「紫苑ってば子供みたい」


クスクス笑い転げてしまいそうになる私を、彼は不貞腐れて見てたけど。



「やっと笑ったな」


不意に思ったらしく、紫苑の茶色の瞳が細くなる。


「頼むぞ、おでん」


味噌入りでも構わない…と言う彼を視野に入れ、何だか胸が掬われた気がした。


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