REARLIGHT TEARS
波に映る流されないビルのカラーを僕の肩越しで見つめる彼女の瞳が囁く。
見上げると、エアプレーンの降下灯が宝石を散りばめたティアラの様に輝く、対岸の摩天楼へと音もなく光跡を残していく…

「夏に降る雪の様に、奇跡が起きないかな…私にも」

ヒールの足元で戯れる暖かな夜の風がプリーツの裾を揺らす向こうで、赤く染まった三日月が光打つ潮騒にルージュを引いていく…
カーラジオからの声が心地良い音楽に乗せ、午前1時の時報を伝えると、彼女は運転席へと腰掛け肩までの髪を軽く解き始めた。

「ねぇ、彼女の事少し話して…」

シートをリクライニングにし、僕のプライバシーへと話題を振る彼女の狙いは彼への想いを断ち切る決意の謎掛けと、僕には見えたのだが…

「先月別れたばかりの彼女の事を話しても楽しくは無いけど、君と違って大人しく控え目な女性だったよ」

「そうなんだ…」

憂いを帯びたシリアスなリアクション…
その直後、彼女は意外な行動に出た。

「ねぇ、私じゃダメかしら?」

甘える様に自分を指さして男を惑わす手慣れた演技力には舌を巻くが、確執の根源にあたる感情の相違は、魅力的なアピールとは又、別の所にある。

「愛情を意識すると、友情が壊れる」

「それ誰が考えた格言なの?」

「経験から生まれた、僕のスローガンさ」

おそらく彼女は美化された過去の本質にさいなまれ自らのあるべきアイデンティティーさえ取り違えている。
恋愛にとって、彼女のメリットが意味する大切なものとは、実は単純な答えの中にあった。

「共通の接点は同じ価値観を生むわ。
私達、絶対上手くいくと思うの」

やれやれ…といった口調で釘をさす僕の一言も、彼女には通用しない。

「公私混同しない所が僕の長所なんでね」

「それも経験から?」

「これは僕のステータスさ」

8月の星座が海の中へと消え行く誕生石の様に蒼く堕ち光る中、シャンデリアの様な臨海副都心を湾岸沿いに走ると、ランドマークでもあるタワーシティ・オブ・アクアフロートがジュエルカラーに浮かび上がる。
その華やかに装飾された夜の顔と危うさに酔う彼女の恋愛スタイルが何故シンクロするのか…
セオリーを脱げば希薄なプライドの二面性がフォルム化するが、その鏡像は刹那的ナルシズムのシンメトリーではなく稚拙な価値基準から派生した不均衡な洗脳によるもの…心の具現であるきらびやかな一面も、その呪縛に感化されたものだ。
それを慈愛の糧と切り離すかは裁量ではなくその意志の有無が示すものだが…
水の中を泳ぐ様なフローラルミントの香りがシートにもたれ眠っている彼女の本質とまでは言わないが、求めている未来が僕に何を期待しているのか。
横切る景色の中で、その闇を見い出せないでいた…
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