溺愛本能 オオカミ御曹司の独占欲には抗えない
私の知らない彼がそこにいた。

突然の私の訪問に気づいてびっくりした顔をする彼と目が合う。

「か……楓?」

後輩もそんな彼を見て私の方を振り返り、ニヤリとした。

悪意に満ちたその目を見て、背筋がゾクッとする。

彼女は同じ部署で私の三つ下の渡辺真奈。

男子社員に人気の可愛い子。

自分の中で何かがガタガタと音を立てて崩れる。

ひどく動揺して踵を返すと、床に落ちた袋も拾わずに走って彼のアパートを出た。

そんな私の心情と同じように外の天気は激しく荒れていて、桜が満開というのに雪が吹雪いている。

悪夢のような現実。

胸の中がモヤモヤして気持ちが悪かった。

あまりに狼狽していてどこをどう歩いたのか覚えていない。

気づけば、兄に成人祝いに連れてきて貰ったバーに向かっていた。

お酒を飲んで全てを忘れたいと思ったのだ。
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