溺愛本能 オオカミ御曹司の独占欲には抗えない
私は歯車のひとつでしかない。

代用がきく。事務職なんてそんなもの。

そう考えると、虚しくなった。

家に帰って、コンビニで買ったお握りを口にすると、少しずつ荷物をまとめる。

でも、どこに引っ越すというのだろう。

不安で頭がおかしくなりそうだ。

ひとりで生きるって難しい。

今までどれだけ兄の存在に救われていたのか。

棚の本を整理していたら、棚の上の電話が鳴ってビクッ。

相手は遥で私が出ないでいると、留守番電話に切り替わり、彼の少し苛立った声がした。

『このまま逃げられると思うなよ、楓』

「逃げるわよ。遥の世話になんてなりたくない」

電話を見据えてそう言い返すが、彼には聞こえていない。

それでいい。

彼も忙しいし、時間が経てばそのうち私のことを諦めるだろう。

私は自分の力で生きていく。

誰の力も借りない。
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