溺愛本能 オオカミ御曹司の独占欲には抗えない
耳障りなその声をもう聞きたくなかった。

一刻も早くここを出て、ひとりになりたい。

そう思って立ち上がるが、やっぱり身体が怠い。

早退したいけど……無理だな。

仕事が溜まってる。

「ちょっと水無月さん、聞いてます?」

眉間にシワを寄せ、渡辺さんが突っかかってくる。

そこへ佐倉先輩がやってきて……。

「おい、止めろよ!」

彼は渡辺さんを睨みつけた。

お願いだから、痴話ゲンカするなら私のいないところでやって欲しい。

激しい頭痛がする。

「……私は人のものは取らないよ」

頭を押さえながら仕方なく彼女に目を向け、きっぱりと告げる。

私なりの精一杯の皮肉だ。

だが、心身ともに限界に来ていたのか、キーンと耳鳴りがする。

目の前は真っ黒で何も見えない。

ああ……苦しい。

誰か……たす……け……て。

誰……か。
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