溺愛本能 オオカミ御曹司の独占欲には抗えない
『ペーパームーン』と書かれた看板を見つけ、メタルレッドの重厚な扉を開ければ、そこは街の喧騒を忘れさせてくれる大人の隠れ家的なバー。

照明は薄暗く、ジャズの音楽が流れている。

客層は三十代から六十代の裕福そうな男性がメイン。

カウンターにはちょうど誰もいなくて、私は奥の席にためらいがちに腰を下ろした。

「外、すごい雪ですね」

四十代くらいのバーのマスターが、ニコリと笑って私の前におしぼりを置く。

「そうですね」

何も考えずに合槌を打ち、おしぼりを手に取ると、とても温かかった。

それで初めて気づく。

私の身体は、こんなにも冷え切っていたんだ。

目の前にあるメニューを見て、兄が言っていたことを思い出す。

『楓はお酒弱いんだから、ロングアイランドアイスティーは絶対に飲むなよ』

理由を聞いたら、かなり強いお酒が何種類も入っているらしい。
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