わたしと専務のナイショの話
わたしと専務のヒミツ
「朝から緊張で吐きそうなんですよね~」
新入社員の坂下のぞみは、先輩秘書、御堂祐人(みどう ゆうと)に専務室に連れて行かれながら、そう言った。
役員室の並ぶ廊下は、ぶ厚い絨毯が敷かれていて、音もしない。
シンとしていて、重苦しい感じだ。
最近は、役員室もオープンなところが多いというのに、此処はかなり古い体質の会社のようだ、とのぞみは思った。
まあ、創業者一族の力が強くて、跡継ぎ息子がいきなり、専務になるくらいだらかな~。
それで、ちょっとゴタゴタしているらしい。
っていうか、私が配属されたの、その問題の専務のとこだよね……。
いきなり専務になった創業者一族の跡取り息子。
どんな横暴な奴だろう……と勝手に決めつけ、余計緊張してしまう。
しかし、緊張するといえば、この先輩秘書、御堂さんのイケメンぶりにも緊張するんだが。
そう思いながら、のぞみは、肩幅が広いせいか、ダーク系のスーツがよく似合う祐人を見上げた。
大企業の秘書って、ルックスの選抜もあるのだろうかな、と思ったとき、祐人が専務室のドアをノックしようとした。
「ま、待ってください。
人という字を書いて飲んでもいいですかっ?」
思わず叫んだのぞみを振り返りもせずに、祐人は、
「いや、待たない」
と言って、すぐにノックをしてしまう。
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