わたしと専務のナイショの話
 


 今日は結局、会えなかったから、せめて、電話で話したい、と京平は思っていた。

 まだのぞみは寝ていないというので、電話する。

 昨日のことを覚えてなかったこととか、問い詰めたいし、覚えてないのなら、ちゃんと好きだと言いたいと思っていたのだが。

 のぞみは、
『こ、こんばんは……』
とやけに硬い声で出てきた。

「……こんばんは」
と京平もつられたように硬い返事をしてしまう。

 そのまま、のぞみも自分も沈黙した。

 まずい。

 なにか言わなければ、と焦った京平は、
「歯は磨いたか?」
とうっかり、子どもに訊くようなことを訊いてしまう。

『は、はい。
 専務はもう磨かれましたか?』

「……これからだ」

『そうですか』

 いやいやいや。
 俺たちは、なんの会話をしてるんだっ。

 何故、深夜に、お互いが歯を磨いたかどうか確かめ合っているっ?

 確かめ合わなきゃいけないのは、愛だろうっ!
と思いながらも、沈黙していた。
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