わたしと専務のナイショの話
川原の横を走りながら、のぞみが、
「結構酔ってらっしゃるようですけど、大丈夫ですか?」
と訊くと、京平が、あっ、こらっ、と遠ざかる川原を振り返りながら叫んできた。
「なんで駆け抜けるんだっ。
ええいっ。
止まれっ、止まらんかっ」
いや、あんた、何処の武士か大名だ、という口調だった。
「なんでですかっ。
夜の川辺は冷えますよっ」
と言うと、
「俺は今から、お前とあそこでキスするんだっ」
とまだ振り返りながら言ってくる。
「そっ、そんなこと言われたら、なおさら止められませんよっ」
「なんでだ。
だって、お前、覚えてないんだろうっ? この間の夜のことをっ。
俺はあそこで、もう一度、お前に好きだと言うんだーっ!」
ひーっ、大きな声で叫ばないでくださいっ。
っていうか、それ、もう言ってるも同然ですーっ、とのぞみは真っ赤になりながら、思わず、窓が閉まっているか、確認する。