わたしと専務のナイショの話
金色の専務室のプレートを見ながら、専務ももう居ないみたいだな、とのぞみは思った。
そして、専務室の横の秘書室に入り、金庫を確認する祐人は、まったくいつも通りに見えた。
「よし、ちゃんと鍵、かかってるな」
じゃあ、来なくてよかったんじゃないですかね?
という言葉をのぞみは吞み込んだ。
確認するということが大事なのだろう。
祐人は専務室の鍵も一応確認していた。
「専務もちゃんと鍵をかけて帰られたようだ。
残念だ。
一回あのふかふかの椅子に座って、地上に居る奴らを見下ろしてみたかったのに
――とか思ってないからな」
だから、仕事中と変わらない顔で言うのやめて欲しいんですが、リアクションに困るんで……と思うのぞみに、祐人が言ってくる。
「お前も座ってみたいか、坂下」
「いえ、結構です」
と言うと、この冷静な酔っ払いは、
「そうだな。
お前はいつも、専務室の椅子に座っておられる専務の膝の上に、座ってやがるんだろうからな」
と言ってきた。
「乗ってません……」
「お前、そもそも、あれから専務とはどうなってるんだ?」
いや、真面目に訊いてるんだ、と祐人は言ってくる。