わたしと専務のナイショの話
「他の人を好きな人に、そういうことされたくありませんっ」
とエレベーターの前で振り返り言うと、祐人は、ケロッとして、

「じゃあ、お前を好きならいいのか?」
と言ってきた。

「待ってろ。
 今から、好きになるから」
と言って、祐人は、のぞみを見つめる。

 しばらくして、言ってきた。

「……うん。
 なにかお前のいいところを言ってみろ」

「ありません……」

 酔ってようが、酔ってなかろうが失敬な人だ、と思いながら、下に降りる。

 今度は、エジプトの壁画にはならずにロビーを歩き、警備員さんに、用事は済んだと報告した。

 警備員の佐野村さん。
 この人、すごくシャキシャキ挨拶して、好青年な感じなんですが、これ、酔ってるんですよ。

 いつもより、むしろ爽やかですよ。

 突然、オオカミになることを除けば……、と心の中で思いながらも言わなかった。
< 251 / 472 >

この作品をシェア

pagetop