わたしと専務のナイショの話
 



「行ってきますー」
と歩いてバス停まで向かいながら、のぞみは、いろいろと考えていた。

 しかし、こんな悩みなど、永井さん辺りに言ったら、笑い飛ばされそうだな、とも思う。

『なんなのよ、あんた。
 ちょっとキスされたくらいどうなのよ』
とか言われて。

 ……まあ、相手が御堂さんでなかった場合に限るだろうが。

 鹿子(かのこ)たちだったら、

『御堂さんにキスされたって、なにそれ、自慢ーっ!?』

 ……かえって、ボコボコにされそうだな。

 社外の友だちでも、あまり同情してくれなさそうだ、と思う。

 なにせ、相手は、天下のエリートイケメン様だからな。

 うーむ、と思いながら、早足になっていると、
「こらっ」
と真横から声が聞こえて、びくりとした。

 京平の声だったからだ。

 見ると、濃紺の大きな車が窓を開けてゆっくり走っている。

「なんで気づかないんだ。
 お前、もしかして、今日は、電車じゃないかと思って来てみたのに。

 マラソ大会で並走する車みたいになってしまったじゃないか」
と京平が文句を言ってくる。
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