わたしと専務のナイショの話
専務室から廊下に出ると、祐人がこちらに来るところだった。
『日が落ちて来たら、御堂が現れるっ』
とトンネル付近で怯えていた京平を思い出し、
日も落ちてないのに、御堂さんが居ますよ、
とのぞみは少し笑った。
「……どうだった? うさぎ島」
と足を止めた祐人が訊いてくる。
「可愛かったです」
と笑って言うと、
「日帰りか?」
と問われた。
「はい」
と頷くと、祐人はすれ違いざま、ぽんぽん、とのぞみの頭を叩いてきた。
……なんなのでしょうね? と思いながら、のぞみが祐人を振り返ったとき、すぐ側から声が聞こえてきた。
「祐人は明らかにあんたを意識してるわ」
ベランダへと続く角から、万美子が姿を表す。
居たんですか。
その登場の仕方は、張り込み中の刑事か探偵ですか、と思いながら、のぞみは、
「いや、ですから、専務なんですってば。
私が好きなのは」
と万美子に訴えた。
そして、おや? おかしいな、と思う。
今、するっと言えたぞ、専務が好きだって。