わたしと専務のナイショの話
 公務員と民間とでは、仕事が成功しているかどうかを決める尺度がまったく違う。

 本当にちゃんと仕事がこなせているのか不安だった。

 こなせてなくとも、誰も注意してくれないかもしれない、とも思っていた。

 血筋だけで、専務になった自分をわざわざ正してくれる人間が居るかどうかわからないからだ。

 だからと言って、下っ端のままでいても、みんなが自分を使いにくいだろうというのもわかっていた。

 そこに今の自分にに自信を持って、堂々としている樫山が現れて、つい、強がって、のぞみと結婚すると言ってしまった。

 だが、今は、もうそのことを隠したいとは思っていないし。

 どちらかと言えば、自分も樫山に感謝の気持ちを伝えたいと思っている。

 それに――

 今こそ、のぞみの本心が聞けるのでは?

 そう思い、京平は怒らず、黙って、のぞみの言葉を待っていた。

「私、最初は、樫山さんを恨みました。

 でも、今は樫山さんに感謝しています。

 ……たぶん。

 きっと……」
とのぞみは皿の上で半分になっている二十日大根を見ながら、

「うさぎともふもふ出来ましたし……」
と曖昧なことを言う。

 待て。
 そこで話を切ると、樫山のお陰で、うさぎともふもふ出来たから、感謝してるみたいになるんだが。
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