わたしと専務のナイショの話
 



 京平とファミレスで食事をしたあと、のぞみはマンションのエレベーターホールに立って、ぼんやり、エレベーターのモニターを眺めていた。

 なんでだろうなあ、と思う。

 二人で、あの店に行って帰ってきた今が一番、ああ、夫婦になったんだなーと一番実感している気がするんだが……。

 すると、なにかが下にさげている手に触れてきた。

 京平が手をつなごうとしているようだ。

 えっ、思ったとき、エレベーターが開き、何処かのご家族が降りてくる。

 のぞみは思わず、その手を振り払っていた。

「こんばんは」
「こんばんはー」
とにこやかに挨拶し合ったあとで、二人でエレベーターに乗り込む。

 扉が閉まった途端、笑顔から豹変した京平が教壇から叱ってくるように言ってくる。

「お前は愛が足りないな」

「は?」

「俺への愛が足りないと言ってるんだ。
 今、俺の手を振り払ったろうっ」
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