わたしと専務のナイショの話
「い……、
 いやいやいやっ。

 人に見られたら、恥ずかしいじゃないですかっ」
と壁に向かって後退しながら、赤くなってのぞみが言うと、

「知らないのか。
 新婚は人前でいちゃいちゃしていいという法律があるんだ」
と京平は主張してくる。

 ありません……。

 そして、額に『新婚です』と書いていません、と思っているうちに、部屋のあるフロアに着いた。

 だが、のぞみは扉の前で躊躇する。

 ……中に入るの、ちょっと怖いんだが、自分の家なのに。

 ってというか、後ろに居る、このオオカミさんが怖い。

 なんとか今日も襲われずに済ましてもらえないものだろうか。

 嫌なわけではないが、初めてのことなので、なんとなく怖い。

 いっそ、誰かに全身麻酔を打ってもらおうか、といつも歯医者で思っているようなことを思う。
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