世界で一番優しい嘘〜短編集〜
「おはよう、ございます」
「あら〜、美嘉おはよう」
私の母は私を残し、どこかへ消えた。
別に悲しくはない。
その時、私は5歳でほとんど記憶もなかったから。
そんな私を引き取ったのがこの人。
水沢 アイ。
近くの水沢総合病院で精神科医をしている女性。
一応既婚者らしいのだが、夫は院長なので忙しく、ほとんど家に帰らないらしい。
私もほとんど会ったことがない。
そして、
「美嘉、そこのプリント提出しておいてね」
「あ、はい・・・」
この人を嫌い、だとかそんなことは思ったことは無い。
私を引き取ったくれた人だったから。
何一つ不自由なく育ててくれた人だから。
「・・・行ってきます」
「行ってらっしゃい〜」
私はお弁当をカバンに入れ、家を後にした。
私の通うエルフェ・リリーヌ・ストレチア学院と言うのは、よく分からないが、相当なお嬢様がたが行く学校らしい。
・・・私なんて場違い。
歩いて15分。
わりとすぐ着く。
「おはよー」
「おはよー」
行き交う挨拶の声。
もちろん、私に挨拶をしてくれている訳では無い。
「・・・おはよう」
けれど、たった一人、たった一人だけ。
私に挨拶をしてくれは人。
「お、おはよう、カオル君」
夕月 カオル(ゆうづき かおる)。
私の隣の席の男の人。
黒髪で、肌が白い。
いつも携帯で音楽を聞いている。
・・・何を、聴いているんだろう。
そう思っても、なかなか聞けない。
「今日、転校生、来るんだって!
カオルくん知ってた?」
「そうなの?
僕は知らなかったよ」
へへ、と笑う私。
彼はいつも優しく微笑んでいる。