気まぐれ悪魔に魅せられて
「あ、初めまして…」
こんな時の嫌な予感ってどうして外れてくれないのだろう。まだ誰も何も言っていない、だけど気まずそうに、申し訳なさそうにこっちを見ている颯人くんの顔とか、叶にいの雰囲気とか女の勘とか、もう何がそう確信させるのかわからないけれど、だけど、わかる。
「香緒ちゃん?初めまして。浅川由那です。」
川端くんが言ってたのと全然違うじゃん!すごく大人っぽいよ、そう振り返って叶にいに笑いかける彼女はきっと。
叶にいのこと名字で呼んでるんだって安心する自分がいて、でもそんなによく話す仲なんだって嫉妬する自分がいて、あぁだけど私の話してるんだってちょっと嬉しくなって、でも子供っぽいって紹介してたってこと?…いや、待って。なんで家にいるの?叶にいは放課後まで女子とつるむタイプじゃない。ということは…。
「だって」と「でも」が浮かんでは消える。すぐそこまで浮かんでいる、きっと限りなく正解に近いであろうその答えを叶にいの前で導きたくなくて、導いた瞬間に答え合わせが始まるのが絶対に嫌で。屈託無く笑いかけてくれる彼女に引きつった笑いしか返せない自分が惨めで悲しくて。
「ごめん、飲み物とってくる」
一旦逃げ出させてよ。だってこんなの聞いてない。なんの心の準備もできてないのにこの仕打ちはあんまりだ。