気まぐれ悪魔に魅せられて
ためらいも無く冷蔵庫を開けてしまえば、むしろそれが叶にいにとっては家族同然、妹、みたいな関係を裏付けているようで。名伏しがたいこの感情を、同じく濁ったカフェラテに溶かし込んでしまうかのように無心でかき混ぜる。
二つ差って思ったよりも厄介だ。同じ場所にたった一年しか通うことができずに叶にいは卒業してしまうから。学生だから、学校生活がやっぱりメインで、どんなに学外で一緒にいても私が知らない叶にいが増えていく。追いかけても追いかけても、向こうは無条件で次のステージに進んでしまうんだ。なんてアンフェア。
「カフェラテ作るのにどんだけ時間かかってるんだよ」
不意に引き戻されたと思えば頭の上にかかる重み。
「重いよ、離れて」
「香緒の高さ頭乗せるのにちょうどいいんだよ。身長いくつだった?」
160だったよ、そう返せば、大きくなったな、だなんてしみじみされて。
そうだよ、大きくなったよ。私だってちゃんと、しかも必死に成長してるんだよ。
「制服似合ってるじゃん、馬子にも衣装って感じで」
「ちょっと、どういう意味?素直に褒めればいいじゃん。大人っぽくてドキドキしました〜って」
「怒るなって、あ、いてっ。香緒!!」
叶にいからすり抜ければ、私に体重を預けてた彼はバランスを崩すわけで。だけどすぐ反撃を開始するから、あっさり私は捕まってしまう。
「降ろして!降ろせ、ハゲ!」
「香緒…俺まだハゲてないよね…?」
慌てて髪に手をやる叶にいに向き合って、ハゲてる叶にいはなんか想像できないな、なんて少し笑えば、なぜか不敵な笑みを返された。
「なに、今の笑いは」
「別にー?」
よくわからないけど、こんなじゃれ合いが久しぶりな気がして、楽しくて。
「浅川さん、美人だね」
やめておけばいいのに、口は勝手に動く。
「叶にい、もしかしてあの人のこと好きなの?」
聞いてからすぐに後悔する。いや、聞く前からこうなることはわかっていたのに、どうして聞いてしまったのだろう。
「おっ、香緒が恋愛の話なんて珍しい。好きな人でもできたか?」
「違うよ、そんなんじゃない。てか私もう高1だよ?そのくらい話すし」
「そっか、もう高校生か。早いな、この前までよちよち歩きしてたのにな」
「どんだけ昔の話してるの?…もういい」
相手にすら、されてない。この人の中では私は永遠に幼稚園生のままなのだろうか。だとしたら、そりゃあかわいいよね。私のことある意味ものすごく可愛がってくれるのも納得だよ、なんて自虐する。
階段を上がる後ろ姿に、声に出さず、だけど全力でバーカ。と投げかければ、不意に振り返ってきて。
「香緒、入学おめでとう」
正直大人になったなってちょっとお兄ちゃん寂しくなったよ、なんて言ってくるから。
妹でもなんでも、ちょっとだけ視界に入れたことが嬉しくて。
今はこれでいいかな、なんて思ってしまった。