彼の隣で乾杯を
「タヌキは可愛い部下のウサギをオオカミから一度逃がしたのに。今度はオオカミにウサギを差し出すのかしら?」

早希は社内でタヌキの飼育係と呼ばれ、タヌキから可愛がられ信頼を勝ち取っていたタヌキの大事な部下である。


「時が来た、ってことか」

「私はタヌキのこと信じていいの?」
策士なのはわかっているけれど、私は一緒に働いたことはないし、話をしたのも先日のエレベーターの中と昨日の電話のみ。
タヌキの人柄を判断するまでの関わりはない。

「由衣子がこのことに気付くことはタヌキの想定内だと思うよ」

「私が気が付いて早希を逃がしたらどうするつもりなのかしら。副社長を恨んでることはわかっているでしょうに」

「そんなことしないって思ってるんだろうな」

「・・・タヌキね」

「タヌキだからな」

私たちは顔を見合わせて苦笑した。
関りなどほとんどない私の性格までも理解しているんだろうか、あのタヌキは。

でも、あのタヌキが副社長を早希に会わせると決めたのなら、そこに大きな意味があるのだろう。
不本意ながら私は黙って事の成り行きを見守るしかないってことなんだろうなぁ。
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