彼の隣で乾杯を
蒸し野菜とアンチョビの塩味がちょうどいいバーニャカウダ、白トリュフが沢山のった若鳥のソテー、オリーブの入った丸いパン。どれをとっても丁寧に作ってあるのが分かる。

夕方の散歩から帰るまでは、食後に商談があるから食事中のワインは我慢するつもりだったけれどーーーもう商談は終わっている。

「ああっ、ほんっとに美味しいっ」

ごくりと飲み込むとふわっと鼻に抜ける花のような甘酸っぱい香り。

「由衣子、気持ちはわかるけど飲み過ぎるなよ」
「はい、はいー」

空返事をしてまたグラスを口に運んだ。
商談はもう終わってるし、好きなだけ飲んでいいと言われてどうして我慢できようか。

「ユイコ、違うものも飲んでみる?」
オーナーのマーブル夫人がワインボトルを手にやって来た。

「是非とも頂きたいです!」

私の笑顔と高橋のため息と同時に夫人は満面の笑みでボトルを開けた。

もう、最高。

コース料理以外にワインのお供として特別にチーズとクラッカーにブラックオリーブを出してもらっていた。

それを上機嫌でつまんでいると、
「なあ、由衣子、イタリア支社に異動になる打診はないのか?」
と唐突に高橋が仕事の話をした。

「ないよ」

「立ち上げには関わってるんだろ?」

「そうね。でも、支社設立に関してわたしが関わってるのはほんの僅かなの。私より支社に関して動いてる人が他にいるし。それに今日林さんが来たってことは支社長は林さんってことで決まりでしょう?」

「まあそうだよな」と高橋が頷いたのを確認して私はマーブル夫人から頂いたワインをまたごくりと飲み込んだ。
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