彼の隣で乾杯を
「まあ、さしずめベッド一個しかないのにどうやって二人で寝るのよーとか、この状況が恥ずかしいからたくさん飲んで酔って正体をなくしてしまえーとかなんとか考えてたんだろうけどな」

うわあー。
当り、当たりじゃあないか。
なんだこの男は。

「お前の考えてる事なんかすぐにわかるわ。何年付き合ってると思ってるんだよ」

何年?入社以来だから・・・5年?
でも、付き合いって言ったって同期ってだけで恋人同士みたいな深いモノじゃないし。

「でも、一番近い存在だっただろ?」

いや、ま、そうなんだけど。
って、あれ、今わたし声に出してたかな?
なぜか返事をしていない私と高橋の会話が成立している。

首をかしげると、
「本当に由衣子はバカだな」
と笑われた。

「ほら、水飲め。お前は毎晩飲みすぎなんだから。肝臓やられるぞ」

あれ?ミネラルウォーターのボトルを受け取ってはみたけれどキャップが開かない。

「貸せ」

ボトルを取り上げられて高橋の手でキャップが開けられる。

「こんなこともできなくなるほど飲むなよ。大事な話もできやしない」

受け取ったボトルに口をつけながら「大事な話って何?」と聞いても「酔っぱらいには話せない。大事な話だ」と拒絶される。

だったら酔う前に話せばいいのに。

「ばか高橋」

口をとがらせると軽いげんこつが落ちてくる。

「ばか由衣子」

口調とは裏腹に高橋の目は優しい。
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