彼の隣で乾杯を

翌日、私たちはミラノ空港にいた。

あふっと欠伸をする私に高橋が肩を震わせて笑う。
「しっかり寝ないからだ」

はぁ?寝かせてくれなかったのは誰だ。

「ねぇ、高橋は眠くないの?」
少ししか寝てないのは高橋だって同じはず。

「ゆうべ楽しかったからまだ気分が高揚してるのかもな。そう眠くないんだ。でも飛行機に乗ったら熟睡だろうな」

ゆうべ楽しかったって・・・。

「おい、顔が赤くなってる。なんか思い出した?」

何言ってるんだ、こいつは。
黙って背中を思いっきり叩いた。

「痛ってーな。お前、上品な顔してるんだから上品な態度をとれよ」

「バカ高橋」
そう言い返すのが精一杯。
誰のせいでこんな態度になってると思ってるんだ。
笑っている彼の背中を更に二発ほど背中を叩いてやる。

「こら、由衣子ヤメロって」高橋の口調とは裏腹に表情は楽しそうに笑っていて私をからかっているだけだってことがわかる。


「良樹さん?」

ふざけ合う私たちの耳に若い女性の声が響いた。

振り返ると、私たちと同じ年くらいの女性が立っていた。
ブランド物のスーツに身を包んだ華やかな人だ。全身くまなく手入れされている、そんな感じ。
スタイルがよくてなかなかの美人。そして自信に溢れた佇まい。

「え?妃佐さん?」

「ああ、やっぱり良樹さんだったわ。こんなところで会えるなんて。良樹さんはイタリアでお仕事?」

高橋から『妃佐さん』と呼ばれた女性はちらりと私を見てすぐに高橋に視線を戻した。
笑顔だけど、何となく嫌な感じ。これは女の直感だ。

「いや、全くのプライベート。彼女と休暇ですよ」
高橋は私の顔を見てから口角を上げて『妃佐さん』に笑顔を向ける。

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