彼の隣で乾杯を
離陸すると、私たちは手をつないだ。

明日からはまた日常が戻ってくる。いや、日常じゃない。
高橋はあと10日ほどで長期出張に行ってしまう。はっきりした期間もわからない出張。
私だってこの先このプロジェクトが大詰めを迎える。イタリア支社設立の件も本格的に始動するだろう。帰国したらまた残業の日が続くはずだ。

実際この休暇が取れたことが奇跡だと思う。
いったい神田部長はどんな裏技を使ったのだろう。
直属の部下の高橋はともかく、私は今社長の管理下にあるプロジェクトの一員なのだから。

現実を思い出してふうっと息を吐いた。

「大きなため息だな。幸せが逃げたらどうする」

「高橋のくせに、何その乙女チックな発想」
不貞腐れ気味に言うと
「もうすぐ長期出張になるせいかもな」
と思ってもみない言葉が返ってきた。

「定期連絡とかでたまには本社に戻って来られないの?」

「康史さんが定期的に本社に戻るから。俺がっていう役目はないかもしれないんだ。現地で働けって感じだろう」

「そっか。残念」

「あー、行きたくねえ」
握った手に力がこもる。

「私に会えないから?」

「仕事は嫌いじゃない。それ以外に何があるんだよ」

即答されて目が点になるほど驚いた。
半分冗談だったんだけど。
本気でそう思ってたわけじゃない。そう思ってくれたらいいなってだけで。

「ほら、こういう時はなんて言うんだよ。「私も辛い~」とか「私の方がもっと淋しい~」とかなんとか言えって」

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