彼の隣で乾杯を
「ああ、何だか私まですっきりしたかも」

「落ち着いたら由衣子のところに谷口から連絡がくると思うけど、アレはたぶん今夜は無理だな」

「そうだね。いいよ、私はそのうちで」


私は知っている。
早希がいなくなってしばらくしてからーー
不可思議にアクロスから契約解除された企業があった。

しばらくたって、どうやらそこの社長秘書の女が何かやらかしてうちの康史副社長の怒りを買ったらしいと小耳にはさんだ。

その後、その企業と同様の事業を展開している会社の営業の男性から食事会（合コン）の席での雑談として聞いたところによると、その社長秘書は社長の娘でうちの康史副社長の昔の・・・モデル時代の知り合いだったらしい。

その立場を利用してしつこく康史副社長に付きまとい、あちこちで一方的に恋人や婚約者を名乗っていたというのだ。

そして、直接この本社の副社長室に入り込むようなことをして警備員につまみ出されただけでなく、正式に訴えられて会社の取引は破棄、彼女は社長秘書をクビになり今海外にいるらしい。

康史副社長はうちの広告塔だったけど、それから企業紹介の取材やパーティーにも一切顔を見せることなく一心不乱に仕事をしていると聞いた。

先日、チラッとエントランスで見かけた副社長はいつも通りきっちりしていたイケメンではあったけど、かなり血色が悪く少しやせたように見えた。

それが早希を失ったからだったとしたらーーー
愛情を傾けた人を失ってしまったからあんなに窶れているのだろうか。

ざまあみろという気持ちと、気の毒だと思う気持ちが混在している。
私から早希を奪った恨みは忘れていない。
だけど・・・。

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