彼の隣で乾杯を
私はここ数ヶ月早希との電話で少しだけ副社長の様子を伝えるようにしていた。

相変わらず早希に副社長との間に何があったのか聞くことはできなかったけれど、副社長の様子を伝える度に早希の声が震えることと、私がする副社長の話をおとなしく聞いている様子から、早希もきっと彼のことが忘れられない相手であるんだろうと思っていた。

もしも、本気で副社長が早希のことを必要としているのなら?
早希も本心では副社長を求めていたのなら?

私は応援してあげるしかないのだ。

今日二人がうまくいったことに安堵する。


「ね、そっち今夜はチームの懇親会じゃないの?」

「タヌキが気を利かせて懇親会は明日。今夜はフリー。明日から本格的に動き出すから俺も今夜は資料をしっかり読み込んでゆっくり休んでおくよ」
「そっか、わかった」

「由衣子も忙しいんだろ、休暇明けで」
「まあね、休んだ分は働かないとーだね」

「頑張りすぎるなよ。今週末戻れそうだったら連絡するから」
「うん、わかった。待ってる。そっちも無理しないで頑張って」

「ああ。由衣子、仕事終わって家にに着いたら連絡寄こせよ」
「ふふふ。わかってる。本当に心配症だね」

「当たり前だろ。じゃあな」
「うん」


電話を切ってデスクに戻ろうと振り向いたら、缶コーヒーを手に固まったように立ち尽くしている人たちがいた。

八木さんと同僚の滝田くん、菊地ちゃんの三人。
滝田くんは私と目が合うと何故か缶コーヒーを落としそうになっている。

ここは部屋の隅にあるパーティションで区切られた私用電話オッケーの場所で邪魔にならないように話をしていたつもりだけれどはしゃぎすぎてちょっと声が大きかったかも。

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