彼の隣で乾杯を
「そう。もしかしたら…ってことであるかもしれない」

「嘘っ」
早希は絶句してしまった。


部長に声をかけられたのは昨日のこと。
正式なものじゃなくてレストコーナーでコーヒーを飲んでいた時にたまたま一緒になり、周囲に誰もいなかったから雑談のような話だ。

「佐本さん、イタリア支社に興味はある?」

「そうですね、立ち上げに少しだけ関与しましたし、このところイタリアの企業との仕事が続いていましたから」

「支社長と法務を本社から異動で、後のスタッフはドイツとフランスからって決まってたんだけど、やっぱり営業も一人くらいは本社から出したいって動きがあるらしいんだ。僕は小林君も有力だと思っているけど、佐本さんはイタリア関係に強いから声がかかるかもしれないと思って。・・・もし、打診されたらどうするか考えておいた方がいいと思うよ」

すぐに頭に浮かんだのは高橋のことだった。
私がイタリアに赴任することになってしまったら彼との関係はどうなるんだろう。

「・・・はい」

「いや、決まったわけじゃないからね。人事の最終判断は社長だし。ただ頭のどこかに入れておいた方が良いかと思ってちょっとフライング。どのみち今のプロジェクトチームもめどがついたら解散して元の部署に戻るか異動になると思うし」

「そうですね。わかりました、ありがとうございます」

頭の中が白い靄で覆われていくようだった。
私も考えていなかったわけじゃない。そうなんだけど、そうなったらいやだなと思って考えないようにしていただけだった。

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