彼の隣で乾杯を
「で、イタリア支社の話はどうなったの?」

「私にもよくわからないんだよね。部長からイタリア支社の話を聞いてから1ヶ月以上たってるのにそれから無しのつぶてで。で、他の人に打診してるふうでもないの」

一昨日チームの飲み会があって小林主任にそれとなく聞いてみたところ、主任も何も言われていないと言っていた。主任も自分か私のどちらかだと思っているんだそうだ。

「まさかとは思うけど、行きたいわけじゃないんでしょ?」

「仕事としては魅力的だけど、これ以上高橋と距離ができたらさすがにきつい」
顔をしかめてぐいっとワインをあおった。

前回高橋に会ってから二週間がたっている。
しかも、本社での仕事を終わらせて最終の新幹線に乗り込むまでのほんの1時間ほど。
離れがたくてホームで一瞬触れるだけの軽いキスをしてしまった位。

そうでなくてもこのチームに入ってからイタリア出張が5回。ここ数ヶ月間、高橋と会う回数よりもイタリアに暮らすエディーと顔を合わせた回数の方が多い程なんだから。

「なんだか仕事辞めたくなっちゃった」
冗談交じりに呟くと、
「それも有りだよ」
と真剣な表情の早希の強い視線に気圧されそうになった。

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