彼の隣で乾杯を
「林さんは?」
さっきから林さんの瞳の色が濃くなっている。
相当揉めたのかもしれないし、うまくいってないのかもしれない。

「僕はーーー遠くから見守る立場に変わったよ。僕が近くにいたんじゃ彼女の自立心は育たないからね」

それって・・・
「別れたってことですか?」

「別れたのかもしれないし、そうでないかもしれない。ちょっと距離を置こうかなって」

林さんは口角を持ち上げて笑ったように見えるけれど、眼は笑っていない。

「そうですか」
これ以上言いたくなさそうだったから私は追及をやめた。
他人の恋愛に口を挟んでいいことなどないと思っているからだ。

林さんの彼女は私たちの同期の秘書課にいる薫だと早希から聞いていた。

ひと口に同期と言ってもかなりの人数がいて接点がなくてあまり親しくない人もいる。
薫もそんな同期の一人だ。

彼女に関して知っているのは新人で秘書課に配属になった明るくてどことなく品のある子だということだけ。
依存心の強い子というのも社長の親戚だというのも知らなかった。

依存心もなければ無いで可愛げがないと言われ、ありすぎてもこうして問題になる。
薫はどうやら私とは正反対の女らしい。


「他人から見ると私は依存心が希薄らしくて。男性から見て保護欲を刺激されないらしいですから、足して二で割れればちょうどいいんですけどね」

「これ以上魅力的になると、良樹君が心配するからやめておいた方が良いよ」
林さんがクスリと笑う。

「彼、長期出張に出る前に社長室で佐本さんに悪い虫がつかないか心配だから見張って欲しいって健斗社長に言ってたから」

は、はあああああ?
何をーーーーーーーーー

全身がカッと熱を盛ったように熱くなり、両手で顔を覆った。

「あ、薔薇の花の鎧が取れた」と林さんにからかわれたけれど、いやいやそんなの聞いたら無理だから。

ーーーしばらく顔のほてりがおさまらなかった。
< 157 / 230 >

この作品をシェア

pagetop