彼の隣で乾杯を

しばらくすると林さんが健斗社長に呼ばれて離れて行くと入れ替わりに高橋のお母さんが戻ってきた。

「由衣子さん、ハチに刺されたんですって?」

「ハチですか?いえ刺されてませんけど」

どこかに蜂がいたんだろうか。
驚いて目を見開ききょろきょろすると、お母さんがクスクスと笑い出した。

「あれよ、あれ」と目でキネックスのご令嬢をさした。

「そう、あの子は蜂みたいなもの。ぶんぶんうるさいでしょ」

彼女、蜂ですか。

「気にしないことね。あまりひどくなるようなら殺虫剤を撒いてあげる。私じゃなくても良樹がやるでしょうけど」
話の内容が半分も理解できない。

「それはどういう・・・」

「私のことは”麻由子さん”と呼んでちょうだいね。早希ちゃんもそう呼んでるし」

麻由子さんはほほ笑んだ。
優雅で美しい笑顔に圧倒されてしまう。女優か大人モデルかはたまた流行りの美魔女か。

”麻由子さん”なんて親しく呼んでいいものかと逡巡していると「麻由子さーん」と早希の声がした。

ニコニコしながら私たちに近付いてくる早希の姿に「ほらね」と麻由子さんが笑う。

「あなたも遠慮はいらないわ」

そんな麻由子さんの言葉と早希の無邪気な笑顔に背中を押された気持ちになる。

「はい。それでは私も”麻由子さん”と呼ばせていただきます」麻由子さんの目を見て返事をすることができた。
< 158 / 230 >

この作品をシェア

pagetop