彼の隣で乾杯を
私の部屋にある早希のお気に入りのクッションを抱いて涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま呆けていたら、テーブルに置いたスマホが鳴り出した。
誰だろう。
多分、もう早希ではない。
仕事かな・・・。
海外事業部の私にはたまに深夜帯にも海外から緊急連絡の電話がかかってくることがある。
仕事か、プライベートかを確認するために大きく息をついてスマホの表示を見た。
表示は
『高橋良樹』
彼だ。急いでスマホを手にして深呼吸してからタップした。
「・・・・もしもし」
「おい、谷口のこと聞いた。お前、大丈夫?」
スマホから聞こえるその声に胸を掴まれる気がして自分の声が震えだした。
「・・・全然大丈夫じゃないよ。・・・連絡ありがと」
「そりゃ大丈夫じゃないよな。俺、昨日から関西に出張しててさっき帰ってきて知った。
康史さん、あ、いや副社長が夕方、社内で大声を出して谷口を探してらしいじゃん」
高橋はいつもよりも早口で焦っているのがよくわかる。
高橋と早希は同じ部署だから出張帰りに会社に寄って残業で残っていた同僚からでも聞いたのだろう。
「副社長、残業してた私のとこにも来たの。真っ青な顔して」
「谷口と康史さんの関係って一体何なの?お前知ってた?」
「ううん。ほとんど知らない。私が二人に何かあるって知ったのは昨日の夜なの。・・・どんな関係なのかなんて知らない、まだ聞いてない・・・早希は昨日も何も言いたくなさそうで聞けなかった」
言いながらぐぐっと涙がまたこみ上げてくる。
私は親友だと思ってたけど、何も相談されてなかった。
私だけが親友だって思ってたのかもしれないと淋しさと悲しみが襲ってきて我慢できない。
「昨日無理しても聞きだせばよかったのかなーーー」
「おい、泣くな」
電話の向こうで高橋の焦った声が聞こえる。
「さっきね、早希から連絡あった。・・・しばらく連絡できないって。早希どっか行っちゃった。ーーごめっ、ちょっと考えたら泣けてきて・・・。でも、私は大丈夫だから高橋は気にしないでいい。まだ仕事でしょ」
ぐずぐずと鼻をすすりながら言っても嘘っぽいけど「大丈夫だから」と繰り返し伝えて一方的に電話を切った。
誰かに頼りたい気持ちはあるけれど、これ以上高橋相手にぐずぐずも聞かせたくない。