彼の隣で乾杯を

恋と仕事


キネックス社のパーティーから5日。
アクロス本社には噂話が流れていた。

私がそれを聞いたのはお昼休みの社食だった。

肉ゴボウうどんをすすっていると、背後のテーブルに陣取った総務課のお嬢さん達がわいわいと盛り上がっている。

「ねぇ、聞いた?うちの副社長、あのタヌキの飼育係と婚約したんだって」
「え、まじで」
「噂はあったもんね」
「谷口さん、凄くきれいになったもの。前の地味~な感じは微塵もなくなっててびっくりしたわ」
私も思わずうんうんと同意してしまう。

「イケメンひとり消失」
「残ったイケメン独身有望株は社長秘書の林さんと海事の小林さん、営業の高橋さんじゃない?」

はいはい、きたきた。

そうだよね。
残る独身イケメン御三家って感じ。
3人共にタイプは全く違うけど、会社を代表する位のイケメン。

「でも営業の高橋さんは婚約者がいるわよ」

ん?
婚約者?

私の箸が止まる。

「高橋さんの婚約者って人が昨日会社に来ていたらしいわよ」
「嘘でしょう?」
「なんかね、美人が受付で営業部の高橋良樹の婚約者ですって名乗ったんだって」
「えー」
「美人の婚約者がいるんじゃ手は出せないかぁ」
「じゃあ残りは林さんと小林主任だけってこと?一人はあの冷血サイボーグの林さんかぁ。ちょっときびしいなぁ」
「あ、でも林さん、最近笑うって。表情筋あるみたいよ」
「うわぁー、見てみたい」

総務課のお嬢さん達の会話は続いていたけれど、私の箸は驚きで止まったまま。

婚約者が会社に来た?
高橋本人が長期出張でいないのに?

どう考えてもあの蜂が動き出したんだろうけど。
まさか外堀を埋めに来たとか?

やっぱり殺虫剤が欲しい---

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