彼の隣で乾杯を
執務室を一緒に出たポチに挨拶すると、常務室と同じフロアにある副社長室に寄ると言う部長と常務室の前で別れた。

ひとりひと気のないフカフカの絨毯の敷かれた役員フロアの長い廊下を歩いて、エレベーターホールで大きく息をついた。

何だかひどく疲れた。

キネックス社の次男坊だか何だか知らないけれど、仕事上の取引と女を結び付けるだなんて無能にもほどがある。

同じ御曹司でもうちの副社長やエディーとは全然違う。もちろん、高橋ともだ。

そんなのが会社の重要ポストにいるのならキネックス社の将来が心配だ。

パーティーで見かけたキネックス社の副社長をしているという長男はまともそうに見えたけれど、それもどうなんだろうか。

それにもう一人いたっけ、不安要素。妃佐さんというご令嬢が。

いくらキネックス社の社長とうちの会長が親しいからといっても、この辺りが限界だ。ビジネスとプライベートはきちんと分けるべきではないだろうか。

ポーンというエレベーターの到着音に続いてエレベーターの扉が開き、乗り込んでフロア指定ボタンを押すと、私の背後からさっともう一人乗り込んできたのでびくっと驚いてしまった。

絨毯のせいで足音が消されて背後に人がいたことに気が付かなかったらしい。

「18階をお願いします」

聞き覚えのある声にさらに驚いて振り返ると
ーーータヌキがいた。しかも足元に敷かれた絨毯の保護色みたいなえんじ色の風呂敷みたいな布をすっぽりと頭から纏っている。

脱走したんかい。

私の冷たい視線を受けてえへへと顔を赤らめているし。

「・・・18階ですね」

一瞬ポチを呼ぶべきか悩んだけれど、そうはせずおとなしく操作パネルの18階のボタンを押してあげた。
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