彼の隣で乾杯を
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早希との温泉旅行の日がやってきた。

車で迎えに来るという早希を部屋で待っていると”マンションの下に着いたから出てきて”とメールが入った。

大急ぎでエントランスを抜けて出ると、
「由衣子ー!」
運転席の窓を全開にして早希が手を振りながら大きな声で私を呼んでいるのを見つけた。

白のレクサスのセダン。この高級車はもちろん副社長のだ。

「お迎えありがと」
駆け寄って助手席のドアを開けて乗り込んだ。

「はー、やっぱり高級車ね。早希が運転できるって知らなかったけど、副社長もよくこんな高そうな車を貸してくれたねえ」

きょろきょろと車内を見てから皮張りのシートに身体を沈めた。

「おおっ、身体が包み込まれるみたい」

早希の運転する車には初めて乗る。私は免許すら持ってないからかなり新鮮な体験だ。

「私の地元じゃ車がないと生活できないからもともと私、運転はできるんだよ。でも、都内と田舎は道路事情が違うしね。康史さんが私が運転しやすいようにってこの車に買い替えてくれたんだけど、新車だから傷つけないようにって思うとちょっと緊張するわ」

えへへっと笑って早希は愛しそうにハンドルを撫でるような仕草をした。

「運転手さん頼りにしてます。よろしくお願いします」

「はいお任せ下さいませー」

顔を見合わせてプッと笑い合い、そうして私たちの週末旅行が始まった。
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