彼の隣で乾杯を

温泉の内緒話

不意にウインカーの音がして減速すると早希は左の脇道にハンドルを切った。
森は続いていて辺りに建物など見えない。

「こっち?」
「そう。もう少しで見えてくるはずなんだけど~あ、あった」

ただの森の中だと思っていた道が突然雰囲気が変わった。
左右に石灯篭が並び奥には竹林がざわざわと揺れている。
路面も何の表情もないアスファルトから石畳へと変わっている。もうここは宿の敷地内のようだ。

今日泊まる宿についての情報を早希は一切与えてくれなかった。
ここまで来てもなお何も言うつもりがないらしい。
何かサプライズがあるんだろうけど。

立派な門構えを進んだ先にあったのは建物は思ったより小さめながら明らかにかなり高級感が漂う上品な和風旅館。

しかも、すでに仲居さんはじめスタッフがずらりと並んでお出迎えしてるじゃないか。
とんでもない高級旅館じゃないか。なんてサプライズ。

「さ、着いた着いたー」
早希の歌うような弾む声とは反対に私はこんな高級旅館だとは思わなかった・・・と軽くひるんでしまう。

「ステキでしょ?ここね、中もすごいらしいの。楽しもうね」
「ってことはここ副社長セレクト?」
「うん」
早希は上機嫌だ。


車寄せに着けるとすぐに男性スタッフが運転席に駆け寄り、早希から車のキーを受け取る。
私の座る助手席のドアも別の男性スタッフが開けてくれる。
駐車場までの車の移動はスタッフがやってくれるらしい。
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