彼の隣で乾杯を
「それより、由衣子の話を聞かせてよ。良くも悪くもいろいろ動いたんでしょ」
何か含みのある言い方でこちらを見てくる。

温泉で身体が温まってきたせいで瞳が潤んできているから早希の色気が5割増しくらいになっているんじゃないだろうか。

こんな早希を独り占めして悪いわね、副社長。思わず悪い笑顔になってしまう。
もともと私の方が先に早希と仲良しになってたんだからね。

「ねえ、私に報告あるでしょう」
催促されても心当たりはない。
「特に報告することはないと思うけど?」

キネックス社のことなら早希の方が詳しいだろうし。
あれからキネックス社は大変だったらしい。
なぜか急に社長は退陣し親戚関係でない専務が社長になっていた。業務上横領の疑いでご令嬢と次男は訴えられ逃亡したらしい。
当然のことながら私との見合い話は立ち消えた。


「あら、冷たいのね」
「いや、ホントに。言ってないことなんてあったかな?ってくらい」

何かあったかな。
早希がこっちに戻ってきてからというもの大体のことは話してると思うけど。

「イタリアの…」
「ああ、エディ?」
「そう、御曹司。婚約したんだってね」
早希の瞳がキラッと光ったような気がする。

「そうなの。やっとOKをもらえたんだって」

思わず笑みが漏れてしまう。
信頼する友人の1人、エディの結婚が決まったのだ。

「巷の噂じゃイタリアの御曹司が由衣子から若い女性に乗り換えたとか、できすぎたシンデレラストーリーだとかって勝手なこと言ってるよね」

「うん」
そうなんだよね。
残念ながらどこの世界にも他人の幸せを素直に喜んであげられない人がいる。
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