彼の隣で乾杯を
ただ、私がイタリア出張から戻った頃にはもうエディーは仕事以外で女性をエスコートすることなどほとんどなくなっていた。エディーの人生観を変えてしまうほどの女性に出会ったからだ。
相手はもちろん私ではない。

最近、私との写真を撮られていたのも間違いないけれど、それは友人として会っていただけでデートでも密会でもない。ましてや決して2人きりなどではない。

パパラッチたちは自分たちに都合がいいように画像を切り取って使うため、確かに写真だけ見ると二人で会っているように見えなくもない。

写真を撮られたその時はエディーの大事な彼女も一緒にいた。
私に大事な彼女を紹介してくれた食事会だったのだ。

店から出る時にたまたま私とエディーが話をしていたから二人並んでいた状態になっていて、そこをパパラッチたちが撮影したのだ。

おまけに店を出た時、ニコラスは車を回すためその場にいなかった。
私たちの後ろにはマスコミに顔バレしていない地味顔の日本人男性秘書とエディーの彼女がいたのだけど、彼らは私がエディーの本命だと決めてかかっているから秘書と控えめな彼女のことは目に入らなかったらしい。

パパラッチたちは高級焼肉店から堂々と肩を並べて出てきた私とエディーの姿を写真に収めながら「ご結婚の予定は?」「結婚式はいつ?」「新居はどこの国に?」と叫んでいた。
こうなったら今、本物の彼女の存在を知られるわけにはいかない。

控えめで幼気な彼女をこんな悪意の前に晒すわけにはいかない。
私は無言でエディーの隣に並んだ。エディーも瞬時に私の意図に気付き私に一歩近づいた。

「世界中にいるあなたの愛人たちはどうするんですか?」

一瞬エディーの端正な顔がきゅっと引き締まったけれど、すぐにポーカーフェイスに戻り、質問をしたパパラッチに「世界中どこを探しても愛する女性は一人しかいない」と告げて私の腰に手を回しエスコートするようにリムジンに乗せたのだ。

大事な彼女はパパラッチを避け地味顔の秘書によって先にリムジンに乗せられている。
彼女をパパラッチたちの目から隠すためだったとはいえ、見ようによっては私がエディーの恋人に見えなくもない。
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