彼の隣で乾杯を
「やりすぎるから不必要な女性から勘違いして迫られて、必要な女性からは信頼を得られないで逃げられそうになって。日本人の私から見たら本当にバカよね」

”逃げられそうになった”って言葉に早希もギクリとしてわざとらしく咳払いなんかしてる。
ここにもいる、拗らせたカップルが。
こっちはお互いの言葉が足りなくて勘違いして逃げた女だけど。

「ん、ごほん。で、その御曹司の彼女ってどんな女性?由衣子も会ったことある?」

ちょっとかわいそうだから話をはぐらかしている早希に乗っかってあげる。

「うん。本当に可愛いお嬢さんよ。アンドレテの日本支社の入ってるビルの中のカフェのバイトさん。運命的な出会いをしたってエディーが大騒ぎしたのよ」

「ああ、それでシンデレラストーリーね」
カフェのバイトの女の子が海外の大企業の御曹司と身分と国境を越えた恋愛。

有名人で恋愛小説さながらの身分差のある二人にこれからますます周囲の注目が集まるのはある程度仕方ないかもしれないけれど、本人たちにしてみればほっといて欲しいだろう。

「それも無事に婚約までこぎつけたんだからいいでしょう。まだまだやっかみは続くだろうけど、二人には幸せになって欲しいよ」
しかも彼女、将棋が打てる。碁は出来ないらしいけど、これからエディーが教えればいいんだし。
共通の趣味って大事。
エディーにとって彼女は女神様のはずだ。

「そうね」
言葉とは裏腹に早希はまだ納得がいかないようで唇を尖らせている。

「私は由衣子がフラれたように言われるのがちょっと面白くない」

そう。エディーが婚約を発表した先週は大変だった。

婚約を発表した時にエディーは私との関係を丁寧に共通の趣味を持つ友人のひとりだとマスコミに説明していたのにもかかわらず、私のところに記者がやってきて「同じ日本人に恋人を取られた気持ちは?」なんて失礼な質問をするバカがいたりして。

ゴシップ誌にもくだらないことを書かれたりしたから早希が怒っているのだろう。

「自分が悪く言われるのは慣れてるから大丈夫よ。早希はいつだって私の味方でしょ」
笑顔を見せて早希の頬を指先でつつくと早希の頬が緩んだ。

「そう。そうね。これから由衣子には私と高橋だけじゃなくて康史さんもいるし。それに由衣子が気が付いていないだけで由衣子の味方は多いんだから」
早希が綺麗なウインクをする。

「でも、まあ終わり良ければ総て良しだね」
早希の言うことがよくわからず「エディーたちの結婚は始まりだよ?」と返事をしたけれど、早希は薄笑いをするだけで何も言わなかった。


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