彼の隣で乾杯を
とりあえずメシを食おうという高橋の言葉に素直に従う。
せっかくのお料理が冷めてしまうのは準備をしてくれている人にも失礼だ。

お料理の並ぶ和室に移動すると、畳敷きの部屋には夕食が運び込まれるところだった。

「うわっ、綺麗」

料理を並べる仲居さんが料理に使われているのは自家菜園で作る無農薬の野菜や契約農家から仕入れたもので、味わい深いものを吟味して使っているのだと教えてくれる。

季節の物を美味しく頂く、簡単なようで簡単じゃないことにこだわり、さらに調理法もかなりこだわっていて目にも舌にも身体にも優しくそして美味しいのだそうだ。
料理だけでなく、お酒もかなりのこだわりでいろいろ準備されているらしい。

一番のおすすめはと問うと、今日の料理に合うものはスパークリング日本酒だという。
日本酒。しかもスパークリング!

アルコール度数、炭酸共に控えめで飲みやすく、料理の邪魔をしないと聞けばもう頂くしかないだろう。向かいに座る高橋の顔を見つめ、笑顔で頷いているのを確認するとぜひそれをお料理と一緒にとお願いした。


向かい合わせで江戸切子のショットグラスで日本酒を頂く。

わずかな濁りとフルーティーな芳香、舌に微炭酸の刺激を感じながらゆっくりと味わえば不機嫌な気持ちも少しずつ落ち着いていくから不思議だ。

「・・・で、この計画は誰の発案でどんな意図があるわけ?」

一呼吸おいて目の前に座る浴衣姿の高橋に問いかけた。

「あれ?由衣子は俺に会えたのに喜んでないとか?」

ショットグラスの日本酒をぐいっと飲み込んで高橋がわざとらしく片眉を上げてみせる。
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