彼の隣で乾杯を
顔を上げると、私の目の前に座る高橋が穏やかな笑みを浮かべている。

ん?と首をかしげると高橋の笑みが深くなった。

「しばらく会えなくて悪かったな。食べ終わったらあっちで月見をしようぜ」

くいっと顎で母屋の部屋を示される。

「うん」
私は素直に頷いた。

せっかくのお料理を味わいながら口に運んでいく。
間違いなく美味しい。
でも、目の前に私の大好きな男がいることが最高のスパイスになっているということも断言できる。


「美味しいわね」

「ああ。流石久保山家御用達の料理長の味だな」

そう言えばあのイタリア休暇は久保山会長のワインのために行ったんだっけ。

私たちの想いが重なるきっかけになったイタリア出張を思い出す。

「あれからもうすぐ1年か」

「そうね。もう1年なのね。でも、仕事のことだけを言えばあっという間だったけど、プライベートはあっという間じゃなかったわ」

何週間会ってなかったと思ってるんだ、と不満を込めてジロリと見つめる。

「ごめん。その話も後でな」

困ったように眉毛を下げて高橋は手元のグラスをくいっと空けた。


それから社内の話になり、タヌキ常務の話をして二人で笑った。
早希とタヌキの攻防戦は早希側にポチが加わったことで今は圧倒的に早希の方が優勢だ。

「いや、タヌキは様子を窺っているだけだと思うぞ」

新入社員の頃からタヌキの下で働いている高橋が不敵な笑みを見せる。

「でも早希も結婚準備もあるし忙しいからあまり早希を振り回されると困るんだけどな」

「タヌキのことだからそこは抜かりないって。多分、副社長と谷口の結婚休暇中にポチ相手に仕掛けてくるはずだ。まあ谷口も長年の付き合いでそれはわかっているから何か手を打っていると思うけど」

タヌキとキツネの化かし合いみたいな言い方にぷぷっと笑ってしまう。

なんだかんだ言って皆がタヌキとタヌキの飼育係の攻防戦を楽しんでいるのだ。
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