彼の隣で乾杯を
「早希が呼んだらいつでも来るし、辛いことがあったらいつでも私のところに逃げておいで」

早希の肩を抱く副社長がちょっと嫌な顔をしたのでふふんっと笑ってあげた。
私はまだ根に持ってるんだから。

「じゃあそろそろ、社長との時間なんで」
私と副社長のバトルが始まると思ったのか空気を呼んだ良樹が私を促した。

「ああもうそんな時間か」
副社長は腕時計をちらりと見てくすくすと笑いだした。
「兄貴は佐本・・高橋さんの能力を人一倍買ってるからね、退職願なんて受理しないって言うんじゃないかな。精々頑張っておいで」

「ハイ、精々(・・)頑張ってきます」
辞めることは私の中では決定事項なのだから引き留められても従うわけにはいかない。面白がるような副社長の言い方に棘を出して返しておいた。

呆れ顔で私と副社長のバトルを見ていた良樹が「行くぞ」と立ち上がり私も素直に従う。

「あ、待って、由衣子。結婚式はどうするの?」

早希が真剣な顔をして立ち上がった。

「まだ何も決めてないけどお互いの仕事が落ち着いたら良樹の地元でやるつもり。決まったら連絡するから」

私にできた新しい家族。夫の良樹と夫の両親。

夫の両親は先日のパーティーでそれぞれ私を見て”薔薇というよりもーーー”と言っていた。
昨日結婚の挨拶に伺った時に薔薇でなくて何に見えたのかを聞いてみたら、
義父も義母も「スイートピー」と即答した。

何でもお義父さんのご実家の庭に植えてあるのだそうで。良樹のお祖父様が育てているものなんだとか。
花屋に並んでいるか弱く可憐な細い茎の花と違い肥沃な花壇に植えられているせいかご実家のスイートピーはかなり茎が太く、花も大きくて綺麗らしい。

高橋家にとってスイートピーとは繊細でひ弱な花ではなく、可憐でありながら地に足を付けた逞しいものなのだと。

薔薇ではないと言われたことも綺麗だけどか弱いだけではないと言われたことも私には嬉しかった。

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