彼の隣で乾杯を
お二人は疎遠になっている私の両親に挨拶に行ってくれると言う。
事前に私の家庭環境を良樹から聞いていたのだ。

私は彼らにはハガキ一枚出せばいいと思っていた。
私自身は心が遠く離れてしまっている実の両親には金輪際会う気もなかったというのに。

「由衣子ちゃんに無理に会えとは言わないけれど、私たちが挨拶に行くのは止めないでね。あなたがこの世に生まれたのはご両親がいたからなんだから。これからはうちの娘として大事にしますってご挨拶がしたいの」

麻由子さんの言葉に心が震えた。

長いこと亡くなった祖母だけが私の家族だった。
そんな私に嫁ではなく娘だと言ってくれる両親ができたのだ。

彼らの近くにいれば私も今まで祖母以外に感じることができなかった家族愛を知ることができるかもしれないと思う。

「お二人をお父さん、お母さんと呼んでいいですか?」

こみ上げてくる感情のまま声に出すと、お二人は笑顔で頷いてくれた。

パーティーで会った麻由子さんは名前で呼んで欲しいと言っていたのに。

「もちろんお母さんでいいわ。可愛い娘ができたのだもの。こんな綺麗な子から”お母さん”って呼ばれたら身悶えしそう。周りからも羨ましがられるわね」

こみ上げてきた涙をこらえていた私はぎゅっと麻由子さんに抱きしめられ、一気に私の瞳は洪水をおこす。

「これからは私たちを頼っていいのよ」
背中をゆっくりとさすられ耳元で囁かれ、それから目が腫れるほど泣いてしまった。

一方で「もっと早くつかまえてきなさいよ、このバカ息子」と良樹に罵声を浴びせていたから隣でお父さんが苦笑いをしていたのだけれど。

私には血のつながりよりも濃い両親ができた。
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