彼の隣で乾杯を
たんたんタヌキ
「ど、れ、に、にしようかな~」
ランチ付きの会議を終え、コーヒーを飲みながら各営業所からの報告書に目を通していると、斜め前の大テーブルに陣取って今日のおやつを選んでいるらしいスーツを着たタヌキの鼻唄が聞こえてきた。
「部長。糖分の取り過ぎは糖尿病の元ですよといつも谷口や奥さんに注意されていませんでしたか?」
ふんふんと楽しそうな神田部長ことタヌキ…いや、タヌキこと神田部長に一声かけた。
それはつい先日までタヌキに秘書の如くいいように働らかされていた俺の同僚、谷口早希が何度も言っていた言葉。
ただでさえ部長は谷口から酔っていたとはいえ信楽焼のタヌキと間違えられたのに・・・、という言葉は何とか喉の奥に飲み込んだ。
「本質が見えてないね、高橋くん」
タヌキは頬を膨らませている。
「僕が選んでいるのは目の前にあるこのおやつじゃないの。おやつに置き換えた何かだよ」
は?自信満々で何いってんだこのタヌキ。
どう見てもテーブルに積まれたおやつの山から今から何を食べるかワクワクしながら選んでいるところだろうが。
「あ、今胡散臭いとか思ったでしょ。本当だからね。あー、今の目付きで高橋くんはマイナス1点」
タヌキは口を尖らせた。
めんどくせー、なんだ、マイナス1点って。
「すみません。胡散臭いと思ったのは本当ですが、マイナス1点って何ですか」
キーボードを打つ手を止めてタヌキを見た。
タヌキの目の前にあるおやつはよく見ると山と積まれている物の他に4つだけ横によけてある。
イタリアのブランドチョコレートと北海道の有名ブランドお菓子、それとなぜかビーフジャーキーにプロテインバー。