彼の隣で乾杯を
「谷口の方は連絡待ちだな。ま、アイツなら大丈夫だろ。昨日はタヌキがいただろうし」

私が地底深くまで落ち込んでいるのに、高橋の口調は軽かった。
タヌキは早希を可愛がっているっていう上司の神田部長のことだ。

「でも、早希が今どこにいるかわかんないし、神田部長を頼ったのかもわからないじゃない」

「アイツはたぶん、実家だろ。谷口が由衣子に心配するなって言ったんなら心配いらないさ。それよりお前の方が心配」

いきなり私の頬をぶにっとつかんだ。

「いだい。あにすんのよっ」

振り払おうとすると「いいから、谷口は大丈夫だ。いなくなったのはお前のせいじゃない。お前は悪くない。ただ、谷口がいなくなったことにタヌキが絡んでるとしたら安心だけどちょっと厄介かもな」

「どういうこと?」

「いや、まあはっきりとしたら教えるからちょっと待て。俺も由衣子にあやふやなことを言いたくないし」

「え、何?余計に気になるじゃない。教えてよ」

「・・・タヌキに本領発揮されると非常に厄介だってことだ。言ってる意味、由衣子ならわかるだろ?」

高橋の真面目な顔つきに私はゴクッと喉を鳴らした。

「神田部長の噂は聞いてる。相当なヤリ手なんでしょ?」

「ああ、表には出さないけど、裏で手をまわすのがタヌキの得意技だ。相当な策略家だよ。絶対敵に回したくない」

またごくりと喉が鳴ってしまう。

「もしかして、この件にタヌキが絡んでるとしたら相当厄介だな。・・・長期戦になるかもしれないぞ」

ええっ。
「長く早希に会えないのはヤダ」
また鼻の奥がツーンとして涙がにじんでくる。
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