彼の隣で乾杯を
「同僚や後輩を上手に使えるようにならないと出世は厳しいよ、よっちゃん」

「”よっちゃん”は止めてください、神田部長」
俺はじろりとタヌキを睨んだ。

このタヌキは俺の親父やお袋と昔から親しい。
当然、俺のことは生まれる前から知っているというわけだ。

「おむつも変えてあげたのに・・・あの頃はいろんな場所が全て小さくてかわいかったのになあ。よっちゃんはいつの間にこんなに大きくなっちゃったんだか」
いろんな場所って何だ、いろんな場所って。
わざとらしくため息をつくタヌキに思わず舌打ちしてしまう。

「部長、お茶どうぞ。さっき京都の丸帆堂さんから頂いた宇治のお抹茶入りのお茶ですよ」

グッドタイミングで原田女史が現れてタヌキの前にお茶が置かれた。
色、香り共に素晴らしい。

「ありがとう美子ちゃん。これお礼」
タヌキはおやつの山の中から有名なメーカーのクッキーの小箱を女史に渡してズズズっとお茶をすすった。
女史は「やったー」と女子高生のような嬉しそうな声を出して席に戻っていく。

「よっちゃんが嫌なら違う人に頼むからいいよ。行きたい人はたくさんいるだろうし」
タヌキは俺の顔を見ず、おやつの中から何か探すような仕草をしている。

行かなくて済むなら行きたくないに決まっている。
とにかく長期出張前で俺は忙しい。少しでもやれることはやっておきたいのだから。

「あ、あった、あった」目的のものが見つかってご機嫌な様子のタヌキはそのあんパンみたいな手に花の形をしたピンク色をした卵ボーロ乗せそれをを俺に見せつけるようにして口の中にそっと含んだ。

「んー美味しい。これ珍しいんだよ」

再びモグモグが始まった。

大丈夫か、本当にタヌキの血糖値が心配になる。これでは奥サンも谷口も心配するわけだ。

「僕はぁそれでももぐかまわないけど。もぐ。後悔しない?」

”後悔”
その言葉にハッとしてタヌキの手元によけられたおやつに視線を向ける。
絶対になにか意味がある。

このタヌキの行動や言葉には隠れた意味があるはず。


イタリアの超有名なブランドチョコレート。しかも最高品。

北海道で有名なメーカーのチョコレート。老舗ではないが今の社長が一代で築き上げた会社のもの。

プロテインバーのパッケージに書かれた絵はアニメ映画との期間限定コラボ商品。脳外科手術で感情を破壊されスパイとして教育された「サイボーグ」みたいな主人公が双子のヒロインと出会い人間としての感情を取り戻していくアクションアニメのもの。

そしてビーフジャーキー。
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