彼の隣で乾杯を
「絶対に俺が行きますから!」

思わず声に力が入ってしまい室内にいた数人の部員たちの視線が飛んでくるが、いつものタヌキの無茶ぶりだろうとあまり気にもされなかったようですぐに元通りの昼休みのざわめきに戻った。

「僕としてはゆいゆいがうちの子になってもよかったんだけど」

タヌキが残念そうに下唇をつきだした。
誰がゆいゆいだ。勝手に由衣子にあだ名をつけるな。

「いいえ、竜之介にはもったいないですから」

「ふーんだ。よっちゃんだって油断してると横から攫われちゃうよ。副社長の尻拭いでベネチアに行ってる小林主任だけど、すごい勢いで仕事を片付けているらしいよ。早くゆいゆいのいるローマに戻りたいんだろうねぇ。それに、支社の予定地の視察に同行した建設会社のデザイナーがゆいゆいに一目ぼれしちゃって熱烈な求愛行動に出てるって聞いたし。御曹司も毎晩誘ってるんじゃない?ゆいゆいは仕事以外でも大変そうだね。よっちゃん早く行った方がいいんじゃないかな~確かよっちゃんってただの同期だよね」

くっそ。腹立つな、このタヌキ。

「午後の会議は部長にお任せします。俺はドイツに行く準備に入りますから」

俺はパソコンに向かい、まだぶつぶつと呟いているタヌキを脳内からシャットアウトしようとしたのだが。

「よっちゃんってさ、仕事は押しが強いのに女性にはいまいちだよね」
くふふふっと笑っている。

うるせー。余計なお世話だ。
・・・・そうだ。

「部長」
唸るように低い声を出すと、「ん、何かな」と呑気な声が返ってきた。

「先週の木曜の昼休みに部長宛ての時間指定小包が来てましたよね?俺チラッとその小包の箱に書かれた企業ロゴが気になっているんですけど。確か、キャニコンってカメラのーーー」

「わーわー!よっちゃん、それ以上言わない。キミは何も見ていない。見ていない。わかった?見ていないものはうちの奥さんに言いつけることはできない。わかった?」

途端にタヌキは慌てだした。
ふっふっふ。
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